バレエカメラマン
バレエと松脂(マツヤニ)について
2019年6月11日20:06 | コメント 入力
今回は写真そのものの話でなく、バレエに関係する道具としての松脂についてです。
バレエスタジオの床は、昔は木製が多く、私もその上でレッスンをする場合が多かったのですが、スタジオが新しいうちは床が滑りやすく、その滑り止めとして松脂がよく使用されてきました。
より昔になると、コーラをかけて滑り止め止めにしたというような話も聞きました。
私も30年前に小川亜矢子先生主催の六本木スタジオ1番街でレッスンをしていましたが、そちらの床も木製でした。こちらの木製の床は結構グリップ力が強かったと思います。
当然のことながら、スタジオの隅には、松脂を入れた箱が用意されていました。
松脂自体は、油を主成分とした樹脂系自然素材です。
松脂を床に使用した時には、滑り止めとしての効果は高いのですが、それが乾くと今度は、樹脂としてテカテカ・ツルツルな表面となってしまい、本来の効果目的とは逆な機能を発揮してしまいます。
松脂も自然素材なので経年変化が出てきます。特に表面に関しては、空気に触れる時が長くなるにつれて、滑り止め効果が時間と共に少なくなってきます。逆に、松脂をつぶして空気に触れる事が少ない時には、手に少しついただけでも、滑り止め効果はかなり高いです。
木製の床ではあれば、木の表面自体がでこぼこしている為に、松脂乾燥後の逆効果の面はさほど強くはなかったと記憶しています。
リノリウム
時代が新しくなり、舞台を中心にリノリウムが使われ始めると、レッスンスタジオでもリノリウムが使われる事が多くなってきます。
リノリウムが使われ始めた頃には、当然ながら昔の知識が使われ、滑り易くなると、松脂が使われて来た経緯がありますが、リノリウム自体は人工素材でかつ、表面の凹凸がほとんどありません。
最近のリノはバレエ専用として開発された物が多くなり、床の摩擦も適度にコントロールされている物になりつつあります。
以前表参道にある法村バレエ団のスタジオで私も20年程度レッスンしてきましたが、そちらのスタジオも当初の木の床からリノリウムに変更された経験があります。但しリノリウムとしての扱いが適切でなくやはり松脂が使われており、結構頻繁に床がツルツルになってしまう事がありました。
同じく表参道にあったスタジオ1番街の時代には、初めからリノリウムでしたが、朝一にスタッフの女性が雑巾がけしている事に関心しました。
リノリウムは、床に汗やその他のゴミの影響で滑り易くなる事もありますが、大概は、雑巾で拭くあるいは中性洗剤で拭けば、元の性能を取り戻す場合が多いようです。
それでも滑り易い場合は、私の経験上、適切かどうかわかりませんが、重曹を使うと結構良いように思いました。重曹をスプレーした床で、バレエシューズを使うと、シューズ自体が雑巾の役目になり、バレエシューズに汚れが付き、逆に床が綺麗になったりします(^^;)
松脂の功罪
松脂の中には、バレエ用品店では、より使い易い松脂スプレーという物があります。
この中の成分は、松脂とアルコールとなっています。
現在リノでの松脂使用は、バレエコンクールでも松脂使用は禁止されている所が多いです。
バレエコンクールでは、同じ場所で演技者が滑ったりしている場合が、時として観られますが、あれは松脂の疑惑もあります。
松脂は固まってしまうと、水拭き程度では簡単にとれない場合が多いようです。
日頃レッスンしているスタジオの床が木の場合、松脂使用が標準的に使われていると思えます。
問題点は、色々と考えられます。
舞台に立つ場合に、日頃使っているシューズを使ってしまうと、松脂が付着した物を使う事になってしまい、多かれ少なかれ、松脂が舞台リノに付着してしまい、滑り易くなる場合も考えられます。
また、リノに立つ場合には、それ専用のシューズを用意するというのも、不経済になってしまいますし、摩擦の違う木とリノで踊るというのは、多少なりとも慣れが必要です。
もちろんホールによっては、松脂禁止にしていない場合もたまにありますが、これはとても問題が大きいです。松脂禁止にしていないという事は、逆に、松脂を使わなければ、既に松脂が使われている床材ですので、滑ってしまう事も多いに考えられます。
しかしそれはイレギュラーケースとして、もしホールで松脂禁止にしていないホールでは、ホール運営側に指示して止めさせる必要もあります。
基本的には、リノリウム使用のホールでは松脂禁止だと思えます。
できれば、練習も本番も同じ床材にした方が良いのは、言うまでもありません。
細かい話ですが、どのスタジオでも発表会等では外部からプロダンサーを招いていますが、彼ら・彼女達のシューズさえも、松脂で汚れてしまい、そのシューズを履いて、プロダンサーが所属するリノスタジオで使うと、そちらのスタジオの床さえ松脂汚染をしてしまう事です。
また、バレエ教師がリノと木の床で出張講師などする場合には、プロとしては当然ですが、同じシューズを履いてはならないという事も覚えておかなければならないでしょう。
イレギュラーケースとしては、バレエ教室が舞台で使用するリノを自己で保持し使う場合がまれにあるようですが、これに関しては、リノで松脂を使っても他に影響がないですね。
松脂の掃除など
松脂は樹脂・油系の材質なので、水系統では掃除するのは、適切ではありません。
基本的に、アルコール系統で掃除すると良いとの事です。
バレエシューズに付いた、松脂は、雑巾にアルコールを含ませて拭けば、ある程度は効果があります。
ポアントに関しては、元々、ポアントの先が糊で固められてるものですから、そこに水分を含ませた雑巾で拭くという行為は、その部分の耐久性を弱める事になるので、簡単な対応はありません。
とにかく永く木の床で松脂を使ってきた場合には、そこで使用されたシューズから松脂を完全に取るという事は、実際的ではないだろうと思えます。
舞台上で使うシューズは舞台でのみ使用可能とし、それ以外の箇所では、シューズカバーを付けるように指示される事が多いですね。不注意にシューズに付いたゴミ等を舞台上に持ち込んで、問題を汚す事を阻止する為だろうと思えます。
またよくあるのは、髪の毛についたスプレーなどがリノに移り、滑りを発生させる事もあるようです。もちろん、人間の汗も問題となります。
木の床もそうですが、リノでもきちんと定期的な掃除は必須だろうと思えます。
松脂そのものの落とし方は、本頁最後の「松脂の落とし方」が参考になります。
松脂と写真撮影について
写真撮影を行っている業者が松脂について示唆した内容はどうもないようですが...
写真撮影業では、舞台以外の部屋やホワイエなどで背景布(バッグドロップ)とライテイングで構成した箇所で、いわゆるポーズ写真を撮影する事があります。
背景布は一枚布で背景と床の上まで1枚布で敷設されるのが通常です。
その布の上に、バレエーシューズやポアントシューズで被写体が立ちますと、当然の事ながら、シューズのゴミや松脂によって少なからず、背景布が汚れる原因にもなります。
松脂で汚れた背景布は、ドライ乾燥でしか完全には綺麗になりません。
写真撮影時の問題点
大きな問題点は、背景布が汚れるという事ではありません。
シューズに背景布の色が色移りする事がまれに発生する事です。
もちろん布素材にも寄りますが、きちんと染色された布でもそれが発生する可能性があります。
通常ですと、布に付いたシミなどのシミ抜きの基本は、アルコールやベンジンで拭く事です。アルコール・ベンジンで拭くという事は、別な言葉で言い換えれば、布に付いたシミの色素を別の布に色移りさせる事でもあります。
基本的なシミ抜きは、シミの付いた布の下にあて布を敷いて、アルコールをしみこませた脱脂綿などで、トントン叩く事は、周知の事です。
問題点は、シューズにアルコールが含まれていた場合には、このシミ抜きと同じような事が発生してしまう可能性があります。
染料で出来た布の色素自体が、アルコールによって溶け出される事は、普通に考えられる事です。
シューズにアルコール ? と聞くと不思議にも思われるかも知れませんが、松脂の親戚で 松脂とアルコールで構成された松脂スプレーが使われる事も結構あるようです。
アルコールを含んだシューズで、布の上に乗る事は、背景布の色がシューズに色移りする可能性がある事になります。
背景布での色々な評価
世界的に有名な背景布で、利用者からGREATの評価を受けている物で、色移りの評価をしてみました。
アルコールでの評価は使用していませんが、背景布の素材にもよりますが、上記動画で使用している背景布では、色落ち・色移りは、通常使用においては、問題ない事は確認できました。
リノリウムの選択について
リノリウムも幾つか種類があるようですが、私自身の経験から言えば、レッスン場で使う物としては、松山バレエ団でも使用されている 白リノが良さそうです。
白は汚れが目立つからダメという意見もあるのですが、白だからこそ汚れた箇所がはっきりわかるので、掃除する事に意識が向くようになると思います。
掃除をする事で、リノのコンディションを保てると思えます。
グリップ力は、舞台で使う物よりは、若干強いように思えますが、怪我などの軽減を考えると良さそうと思います。厚みも若干厚く、衝撃が少し和らぐ感じもしています。
また他のリノでポアントシューズを履くと汚れやすい場合も、掃除された白リノの上では、ほとんど汚れないという女性の意見も聞いています。
但し以前白リノの舞台を撮影した事があったのですが、舞台としては白リノは基本的に不可です。
なぜなら、照明の色を反射してしまうからです。
例えば、赤系統の照明を照らした場合、人の肌も赤くなってしまいます。
舞台リノは、色の関係から言えば、グレエ系統がベストだと思います。
松脂禁止あるいはリノリウムに対する参考情報
松脂禁止あるいはリノリウム関係が記述されているURL等を以下に示しておきます。
バレエ ジャンプ特集
2018年2月8日10:18 | コメント 入力
演目
2018年1月20日 バレエスタジオKidsDanceM おさらい会より
発表会とは少し異なり、各人あるいはグループとしての技量発表の場としておさらい会が実施された模様です。
今回のおさらい会では、ソロバリエーション中心に、パドドウ、創作物中心にチャレンジされていました。
その演目の中から、ジャンプ物を選択してみました。
皆さんよく飛んでいますね~。
撮影テクニック
私としてはバレエのパの中でも、簡単な撮影だと思っていますが、ジャンプは絶対外さない! という思いも心にあります。
昔は、ジャンプ物でもピント精度上イマイチな頃がありAF-C等は使わず、全てAF-S(シングルシャッター)モードで撮影していました。
最近は、カメラが優秀になり、カメラのAFがある程度動態を追ってくれる事もあり、カメラマンは、タイミングを合わせてシャッターを切るだけになってしまいました。
バレエ経験がありジャンプのタイミングを知っている人達にとっては、ちょっと練習すれば、誰でも上記写真は撮れそうに思ってしまいます(^^;)
最近ミラーレスが流行になりつつありますが、ミラーレスの連射機能を使えば、上記写真は撮れると思います。
しかし、1回の発表会で1カットずつの撮影で数千枚を撮影するのに、そんな連射機能を使ったとすれば、後行程作業の煩雑さや、自分の撮影技量の向上にもつながらないと思えます。
上記撮影のカットは全て1カットで撮りきっていますが、ミラーレスではこういう撮影の基本がほとんど出来ません。
2020年オリンピックに向けてミラーレスはどんどん改良されていますが、最終的に1カットで上記写真が撮れる性能になる事を期待するばかりです。
補足
2018年5月5日 上尾市文化ホールにて 同バレエ教室が、20周年記念としてバレエの大作「ドン・キ・ホーテ(全幕)」(無料)を演じられます。
協力してくれる男性ダンサーも各有名バレエ団の方々が10名も参加した作品になり、私もとても楽しみにしています。
詳細は本バレエ教室のHPを参照してください。
ジゼル
2016年4月19日06:26 | コメント 入力
演目
バレエスタジオ KidsDanceM 2016年発表会 ジゼル全幕から。
ジゼルの物語は言うまでもありませんが、貴族アルブレヒドが村民に扮して村民のジゼルを愛してしまった事から、悲劇が始まります。
物語は、第一幕ではジゼルとアルブレヒドの愛の告白から、村人立ちの蒲萄祭りに始まり、最後ジゼルの狂乱から死へと流れます。
第二幕は妖精となったジゼルが、アルブレヒドを妖精達:ウィリによって死ぬまで踊らせられる死から救います。
表の物語は悲恋に満ちた物語ですが、本当にかわいそうなのは、ヒラリオンだったように思います(^^;)
ジゼルという演目は、チャイコフスキーの4代バレエに比べると、演劇性が強く、踊り以上に物語りとしての演技の流れが人を魅了している事が感じられます。
発表会では全幕はあまり踊られません。
どちらかと言えば、個々の踊りより、キーとなる主役と群舞からなっている為、それ以外の個人の踊りを見せる機会が少ない為だと思われます。
しかし、どのお教室でもジゼルに対しての思い入れは強いので一度は全幕を実施したいと思っていると推測しています。
他のメジャーな幕物に比較して、ジゼルという演目は主役女性(ジゼル)以上に主役男性(アルブレヒド)の演技性が重視されると思います。
今回の発表会では、お客さんの多く更に踊っているダンサー達もジゼルの世界に浸れたとても良い舞台でした。
発表会としては異色の出来だったと思います。
再演時には 更に良い舞台となる事を期待しています。
主なダンサー達
ジゼル:佐藤優美 ミルタ:佐藤愛美 ゲストダンサー(東京バレエ団)/アルブレヒド:柄本弾 ヒラリオン:森川栞央
写真的考察
D4S + 70-200mmF2.8 + 200-400mmF4 (部分的にD5 も)
私の舞台に対する写真の考え方は、発表会では個人を中心に、公演ではその演目内容が伝わる事を中心に最終的な写真を作成する事を基本としています。
但し今回のように、演劇性の強い演目では例え発表会でも、公演的観点からの写真作成をする部分も必要だと考えますが、基本は発表会なので、イマジネーションよりは、個人の演技内容がしっかりと写真として見られるものというのが基本になります。
ジゼル:蒲萄祭り
普通の舞台写真においては、このような写真には成りがたい物になっています。
まず素敵な背景をある程度写真としては見せる必要あり、その中で、スポットの当たっているジゼルの明るさとのバランスを取る必要があります。
通常の公演では、全体的な色調は色温度が結構低めで、黄色ぽい舞台ですが、ここでは全体明るめに現像しています。
後ろの群舞で踊っているのは、高校生以下の子供達ばかりですが、アラベスクも揃っておりとても良いと思います。
ジゼル:許し
ジゼル2幕全体の色調は、青色系統のものと、モノクロ系統のどちらかで公演が行われています。
今回は青色系統のものなので撮影スタイルとしては、色温度を若干青系等が薄めになる5300K程度にし、現像時に、青色と個人の肌色に違和感がなくなるように現像します。
通常のJPG一発撮りでは、ダンサーの肌はより赤ぽいものになりますが、ここでは、発表会という事も意識し、ある程度肌色も出しながら物語イメージが伝わるように現像します。
撮影時には、全体を撮ると共に、寄りでジゼル中心も同時に撮影しています。
ジゼル:愛
ジゼルで最も叙情溢れる箇所ですので、踊り以上にマイム・表情の一瞬を求めながら撮影するのが、大切です。
私は自分でもバレエをもう25年以上踊っていますが、全く初心者の踊りの域を出ませんが、それだけにバレエを常に1カット・1カットに分析するように区切って見ている性質があります。昔、このようなシーンを撮る時は、とても高揚感があったのですが、今は職業としての意識の方が高いので、舞台には入り込めずに客観的に撮影している自分を感じています。
全体感想
一流バレエ団ゲストダンサーの力添えはあるものの、よく発表会レベルで今回のような舞台が出来たのは、非常に希だと思います。
日本全体を見ればバレエのお教室の中には大規模数百人レベルの生徒を保持している所で演じるのも結構厳しい演目を、観客ばかりかダンサーにも涙を流させた舞台は、発表会としては非常に希な舞台だったと思います。
その舞台を、写真としてほぼ完全に撮りきった事に、私のやりがいがあります。